Z0ボソンの同時二重生成を観測
今から1年余り前に,弱い相互作用のゲージ粒子である W± ボソンと Z0 ボソンの同時生成を,大阪市立大学高エネルギー物理研究室が参加しているCDF実験において初めて観測したことを報告しました.今回は,Z0 ボソンの同時二重生成の観測を紹介します.現在の素粒子理論では,弱い相互作用は電磁相互作用と統一されて,ワインバーグ・サラムによる電弱統一理論としてまとめられています.この理論は,現在観測または測定されているあらゆる実験結果と矛盾の無い,非常に優れた体系です.このことを使うと,この理論が新たに予言する現象の整合性などを詳しく調べることで,素粒子の世界の基本的構造に迫ることが出来ます.そういった興味深い現象の1つが,電弱ゲージボソンの同時二重生成です.電弱統一理論の枠組みにおいて,電弱ゲージボソンどうしの反応は,理論計算の必然的帰結として細かく規定されます.例えば,図1に示したような反応は許されますが,図2に示した反応は許されません.図2の反応は電荷の移動だけを考えると矛盾無さそうに見えますが,電弱統一理論では存在できないのです.従って,電弱ゲージボソンの同時二重生成を観測したときに,その生成断面積が理論の予測値と食い違うようなことがあれば,それは我々が知らない何か新しい物理が存在しているかもしれないことを教えてくれます.特に Z0 の二重生成断面積はゲージボソンの組合せの中では最も小さいとされているので,その分,小さな食い違いに対して敏感であるということもできます.例えば,高次元重力を媒介するRSグラビトンが存在すれば,それはある一定の割合で Z0Z0 に崩壊すると予言されています.
今回,CDF実験では終状態が4つの荷電レプトン,または2つの荷電レプトンと2つのニュートリノになる過程
qq → Z0Z0 → ℓ ℓ ℓ ℓ
qq → Z0Z0 → ℓ ℓ ν ν
を探索することで,Z0の同時二重生成断面積を測定しました.解析に使われたデータは陽子・反陽子衝突のルミノシティが1.9 fb−1 の統計量です.多数のコンピュータを使って,荷電レプトンまたはニュートリノ生成を高い確率で保証するための選別を行った結果,Z0Z0 生成以外から来るバックグラウンドが0.1個期待されるところに,Z0Z0 生成と思われる事象が3個観測されました.これは統計的には4.4σの信号優位性となり,まず間違いなく Z0 の同時二重生成を観測したと言えます.バックグラウンド事象だけで偶然にこれだけの数が観測される確率は 1×10−1です.これより,Z0の同時二重生成の断面積も計算され,その値は
σ(Z0Z0; 実験) = 1.4 ± 0.7 pb
となりました.また,電弱統一理論から予想される値は
σ(Z0Z0; 理論) = 1.4 ± 0.1 pb
で,誤差の範囲内で両者はよく一致することが確認されました.図3に他の反応断面積の大きさと対比して示しました.図4は
qq → Z0Z0 → μ μ μ μ
と考えられる事象の検出器内での飛跡です.結果的には,今回は新しい物理の兆候は見られませんでしたが,今後もCDF実験はデータの統計を蓄積していくので,近い将来に理論では説明できないような現象も発見されるかもしれません.