ニュートリノCP位相角の測定(2)
大阪市立大学高エネルギー物理学研究室が参加しているT2K国際共同研究グループは、3σの統計的信頼水準でニュートリノCP位相角δCPの取り得る値の半分近くを排除することに成功しました。以前の高エネルギー物理学研究室ニュース「ニュートリノCP位相角の測定」でも紹介したように、CP対称性の破れは現在の物質優勢の状態を説明するために必須の条件ですが、ニュートリノセクターのCP対称性の破れも
これに寄与している可能性が高まってきました。今回の結果はニュートリノモード 1.49×1021 POT、及び反ニュートリノモード 1.64×1021 POTの統計量をもとにしています。前回の発表に比べて、特に反ニュートリノモードのデータが2倍に増えています。それと共に、δCPだけではなく各振動パラメータの高精度化が図られていますので、まずはそちらから紹介します。
ミュー型ニュートリノの消失現象においては、図1がスーパーカミオカンデで得られたミュー型ニュートリノ及び反ミュー型ニュートリノの再構成されたエネルギー分布です。振動が無い場合との比較を見ると、振動に伴うミュー型ニュートリノの消失現象が0.6 GeVを中心にクリアに見られます。消失の大きさからはθ23の値が得られ、消失が最大になるエネルギーからは\(\varDelta m^2_{32}\) が得られます。図2にニュートリノの質量順階層の場合の様子を示しました。最尤値と誤差は\(\sin^2θ_{23}=0.536^{+0.031}_{-0.046}\),\(|\varDelta m^2_{32}|=(2.434 \pm 0.064)×10^{-3}\)と求められました。T2K実験以外の実験から得られている値も一緒に載せていますが、θ23の測定に関してT2K実験は世界で最も誤差の小さい値を得ています。
電子型ニュートリノの出現現象に関しては、図3に再構成されたエネルギー分布を示しました。反ニュートリノモードのデータ増加に伴い、以前に比べて反電子型ニュートリノ出現現象の個数が増加しています。こちらからはθ13の値がニュートリノ質量順階層の場合に
\(\sin^2\theta_{13}=0.0268^{+0.0051}_{-0.0046}\)、質量逆階層の場合に\(\sin^2\theta_{13}=0.0305^{+0.0064}_{-0.0052}\)と求められました。
さて、いよいよδCPの測定ですが、これは\(\nu_{\mu}\rightarrow\nu_e\)と\(\bar{\nu}_{\mu}\rightarrow\bar{\nu}_e\)の振動確率の非対称性から以下のように求められます。\[ \sin\delta_{CP} \propto \frac{P(\nu_{\mu}\rightarrow\nu_{e}) – P(\bar{\nu}_{\mu}\rightarrow\bar{\nu}_{e})}{P(\nu_{\mu}\rightarrow\nu_{e}) + P(\bar{\nu}_{\mu}\rightarrow\bar{\nu}_{e}) }\] 図4が結果を図示したものになります。特に中段の図がsin2θ23とδCPを表したものになります。白点線の内側が1σ(68.27%)の統計的信頼水準で許容される領域になり、白実線の内側が同じく3σ(99.73%)で許容される領域になります。最尤値は質量順階層で\(-1.89^{+0.70}_{-0.58}\)、質量逆階層で\(-1.38^{+0.48}_{-0.54}\)となり、また3σの許容区間は質量順階層で[-3.41, 0.03]、質量逆階層で[-2.54, -0.32]が得られました。これは世界で初めて3σの信頼水準で閉領域を得たことになり、重要な研究成果と考えています。また、ニュートリノのCP対称性の破れはsinδCPに比例しますが、図4を見るとδCPの値が-π/2に近くなっています。つまり最大の破れになっている可能性があることも注目すべき点です。今後さらに多くのデータが収集されますが、δCPの値がどこに落ち着くのか目が離せない状況です。