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2017年10月26日

ニュートリノCP位相角の測定

大阪市立大学高エネルギー物理学研究室が参加しているT2K実験国際共同研究グループは、ニュートリノセクターにCP対称性の破れが存在することを95%の信頼水準で示しました。この結果は、宇宙がビッグバンで始まったときには物質と反物質が同じ数だけあったはずなのに、現在の宇宙には何故物質しか存在しないのかという現代物理学の最重要課題を解く鍵を与えるものです。

図1:電子型ニュートリノの出現現象のエネルギー分布.縦軸の負の部分は反電子型ニュートリノを示す.

ニュートリノのCP対称性の破れは、ニュートリノ振動確率と反ニュートリノ振動確率の違いとなって現れます。T2K実験では2010年から2013年までにニュートリノビームを生成して得たデータと、2014年5月から2016年5月まで反ニュートリノモードで行ったデータを比較して、ミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノに振動する確率と、反ミュー型ニュートリノが反電子型ニュートリノに振動する確率が異なっていることを、90%の信頼水準で2016年8月に発表していました。T2K実験はその後、2016年10月から2017年4月までニュートリノモードでの実験を行いました。この期間にはJ-PARC加速器のビーム強度が増大し、しかもビーム輸送の安定性も増し、それまでの約2年分のニュートリノビームを約1年で生成することができました。その分、データ収集も非常に効率よく行うことができました。結果として、T2K実験が始まった2010年から数えて、1.4×1021POTのニュートリノビームデータと7×1020POTの反ニュートリノビームデータが得られ、新たに開発した解析手法を加えて、これら全データの再解析が行われました。その結果、スーパーカミオカンデで電子型ニュートリノの予想観測数が67個であるのに対し、実際はそれよりも多い89個が観測されました。一方、反電子ニュートリノは予想観測数9個に対し、実際の観測数は7個でした。図1はその様子を示しています。

図2:T2K実験で得られたsin213)とδCPの許容領域.黒線が質量順階層に対する領域で赤線が質量逆階層に対する領域.黄色の帯は原子炉ニュートリノ実験で得られたsin213)の精密値.

図3:T2K実験と原子炉ニュートリノ実験で得られたデータを合わせた場合のsin213)とδCPの許容領域.

図4:δCPを変数にしたときの-2Δln(L)の値.ハッチで挟まれた部分がδCPの許容範囲.

これらの観測数に加えて、ミュー型ニュートリノ振動や反ミュー型ニュートリノ振動の観測や、そのエネルギースペクトルを同時フィットし、また、中国、韓国、フランスで行われている原子炉ニュートリノ実験による反電子ニュートリノ欠損事象の結果も考慮して総合的な解析を行いました。図2はT2K実験のみで得られたsin213)とδCPのプロットです。黒線がニュートリノの質量順階層に対応し、赤線が質量逆階層に対応します。また、実線に囲まれた部分は90%信頼水準の領域を示し、破線に囲まれた部分は68%信頼水準の領域を示しています。黄色い帯は原子炉ニュートリノ実験で得られたsin213)の精密値です。図3はT2K実験の結果に原子炉ニュートリノ実験の結果を加えた結果です。実線や点線の意味はさきと同じです。さらに、これらの結果をもとに、Feldman-Cousins法を用いて統計的に解析すると、CP対称性が保存される、つまりδCPが0かπであることを95%の信頼水準で棄却することに成功しました。図4に示されるように、95%で許されるCP位相角δCPは、質量順階層(質量逆階層)に対し、–171°< δCP < –34°(–88°< δCP < –68°)となっています。今回の結果はT2K実験が収集を認められている約30%のデータに過ぎません。残りの70%のデータはあと数年で取得される予定で、そこではさらに精密な結果が得られることでしょう。