ハイパーカミオカンデ空洞掘削完了
大阪公立大学高エネルギー物理学研究室では,2028年のデータ取得開始に向けてハイパーカミオカンデ実験の実験準備を急ピッチで行っています.ハイパーカミオカンデ実験グループは,東京大学宇宙線研究所と高エネルギー加速器研究機構がホスト機関となり,大阪公立大学も中核機関として参加している世界22か国・約640名(2025年7月現在)の研究者からなる国際共同研究グループです.岐阜県飛騨市の神岡鉱山にスーパーカミオカンデ検出器の約8倍の有効体積を持つハイパーカミオカンデ検出器を新たに建設し,茨城県東海村に位置するJ-PARCからの大強度ニュートリノビームと合わせて,
- ニュートリノ振動と反ニュートリノ振動の確率の違いを測定してニュートリノのCP対称性の破れを詳しく調べ,宇宙に物質が残された謎に迫る.
- 陽子崩壊を探索して電弱力と強い力が統一される「大統一理論」を検証する.
- 超新星爆発からのニュートリノを検出することで,爆発の仕組みやブラックホール誕生の瞬間に迫る重要な情報を得たり,宇宙の進化においてどのように星が誕生し重い元素が作られたのかを解き明かしたりすることによりニュートリノ天文学を飛躍的に発展させる.
ことを目的としています.図1にハイパーカミオカンデ検出器の完成予想図を示します.直径68m,高さ72mの超巨大水槽に純水装置で生成された26万トンの超純水を満たし,全ての内壁には約20,000個の新型50cm径光電子増倍管(図2)が敷き詰められます.水槽が入る巨大空洞は神岡の二十五山の山頂から地下600mのところに作られますが,2021年5月にまず空洞掘削に至るアクセストンネルの掘削を開始し,2022年6月には空洞天井ドーム部の中心に到達しました.その後2022年11月にはドーム部の掘削を開始.高さ600m分の山の重みにアーチ構造で耐えながら,直径69m,高さ21mの大空間を掘り進めました.天井には600本以上のアンカーボルトを設置して壁面の安定性を確保しています.2023年10月にはドーム部掘削の完了に続き,下方向に73mの円筒部掘削が始まりました.掘削を進めるためには掘削した岩石を排出していかなければいけませんので,まず円筒部の中央に深さ70mの竪穴を掘り,掘削中の空洞と一番下に空けられたアプローチトンネルをつなぎました.火薬による発破で砕かれた岩石はその縦穴を通して下に落としダンプカーで外部に排出しました.円筒部の壁面にも計画的にアンカーボルトを打ち込み安定性を保っています.掘削途中には一部で僅かな壁面の不安定さが発見され追加の補強工事が必要となりましたが,安全性最優先で速やかに実施し,2025年6月には全空洞の掘削が完了し,直径69m,高さ94mの超巨大空洞が出来上がりました.人工的に作られらた地下空間としては世界最大の大きさです.6月28日には空洞掘削完了記念式典が行われて報道陣にも公開され,6月29日には一般公開も行われました.図3と図4は掘られた空洞の写真です.一緒に写っているショベルカーなどの重機の大きさと比べるといかに大きな空洞か分かると思います.今後は下から上に向かって,1段ずつステンレス板を置き岩盤との間に鉄筋を組んでコンクリートを流し込んで大きな水圧にも耐える水槽を作っていきます.ステンレス板どうしはしっかり溶接して水漏れが無いようにします.水槽が出来上がったら,今度は床で構造体を作り光電子増倍管を取り付けては1段ずつ引き上げる作業を繰り返し,壁面,床,天井を光電子増倍管で敷き詰めます.その作業が終われば最後に純水装置で生成した超純水を水槽に貯めていきます.水槽を満たすのに半年以上かかり,注水中も水槽と純水装置で水を循環させて純度を高め,満水になると同時に高精度の観測が開始できるようにします.観測開始は2028年6月を見込んでいます.