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2010年03月18日

T2K実験本格開始

t2k-all-setup

図1:T2K実験のセットアップ.

nd280_birdseyeview

図2:前置検出器.(ND280 と INGRID)

ingrid-firstevent

図3:INDRIDで観測された最初のニュートリノ反応イベント.

nd280-event

図4:ND280で観測されたニュートリノ反応イベント.

T2KfirstEvent

図5:スーパーカミオカンデで観測されたT2K実験最初のニュートリノ反応イベント.

日本の次世代ニュートリノ振動実験T2Kが、この度本格的に物理ランを開始しました。 前回、T2K実験を紹介したときには、J-PARCにおけるニュートリノビームの生成に成功したことをお伝えしましたが、ここではその後の数々の進展についてお話したいと思います。

T2K実験は、茨城県那珂郡東海村に建設されたJ-PARCから、岐阜県飛騨市神岡町のスーパーカミオカンデに向けてミューニュートリノ( νμ )を打ち込み、その間295kmを進む間に νμ が別のフレーバーに振動する現象を詳しく調べ、そこに潜む物理を研究する実験です。図1に、実験における測定器の位置関係を示した概略を示します。図を見 て分かるように、生成されたニュートリノはJ-PARCの敷地内とスーパーカミオカンデの2地点で観測されます。加速器のすぐ近くでニュートリノが振動する以前の様子を詳しく調べておき、これをスーパーカミオカンデでの観測結果と比較することで、起きた振動の大きさなどを知ることができます。J-PARC の敷地内の検出器は”前置検出器”と呼ばれており、この前置検出器はさらに、ニュートリノビームの中心軸上にあるINGRID と、スーパーカミオカンデとの直線上にある ND280 に分かれています。(図2) ニュートリノビームの中心軸がスーパーカミオカンデの方向から僅かにずらせてある理由は、これによってスーパーカミオカンデ に向かうニュートリノのエネルギーを狭い範囲に絞ることができるからですが、これについてはまた別の場所で詳しくお話することにします。

INGRID は京都大学を中心に、大阪市立大学も加わって建設が進められ、2009年8月に主要部分のインストールが完了しました。INGRID は、プラスチックシンチレーターのトラッキングプレーンと鉄標的を交互に重ね合わせたサンドイッチ構造をしており、鉄標的でニュートリノが荷電カレント準弾性散乱(CCQE反応: νμ + n → μ + p)を起こして生成されたミューオンの飛跡を観測することで、ニュートリノビームのプロファイルや中心軸の位置、及びビーム強度をモニターします。2009年11月のビームコミッショニング時には、INGRID で初めてのニュートリノ反応事象が観測されました。(図3)

ND280 はスーパーカミオカンデへの直線上に置かれており、スーパーカミオカンデに向かうニュートリノビームのエネルギー分布と強度、及び νe などのバックグラウンドの混入率を測定することが主な目的です。そのために、飛跡検出器や電磁カロリーメーターなどの検出器の複合体となっており、 INGRID と同じくCCQE反応を測定します。ND280は2009年12月にはほぼ建設が完了し、現在では図4に示したようなニュートリノ反応が観測されています。

最後に、J-PARCから295km離れたスーパーカミオカンデについてです。この検出器は総量50ktonの水チェレンコフ検出器で、ニュート リノ反応により生成した高エネルギー荷電粒子が作るチェレンコフリングを観測することで、ニュートリノを検出します。ここでも2010年2月に、J- PARCのビーム由来と考えられるニュートリノの検出に成功しました。図5がその事象で、ニュートリノが水と中性カレント反応を起こし、π0 中間子を生成した事象だと考えられます。 今後はさらにデータの統計を増やし、ニュートリノ振動に関する物理結果に繋げていきます。