News

2015年06月01日

反ミューニュートリノ消失現象の測定

J-PARC大強度陽子加速器施設とスーパーカミオカンデを用いて行われているT2K実験では、2014年5月から反ミューニュートリノビーム生成の運転を続けています。

図1 : T2K実験のパイ中間子生成標的に照射された陽子数。生成されたニュートリノの統計に対応する。赤点がニュートリノビーム運転、紫の点が反ニュートリノビーム運転を表す。

図1 : T2K実験のパイ中間子生成標的に照射された陽子数。生成されたニュートリノの統計に対応する。赤点がニュートリノビーム運転、紫の点が反ニュートリノビーム運転を表す。

以前の高エネルギー物理学研究室ニュース「反ニュートリノビームの生成」で紹介しましたように、反ミューニュートリノ(νμ)はミューニュートリノの反粒子で、加速された高エネルギー陽子が標的に衝突したときに生じる多数のパイ中間子のうち、負電荷を持つパイ中間子の崩壊により生成されます。図1はT2K実験でデータ取得を行った統計量を、標的に衝突させた陽子の数(Protons on Target, POT)で表したものです。赤い点がミューニュートリノビーム運転を表し、紫の点が反ミューニュートリノビーム運転を表しています。現在、反ミューニュートリノビームは 3.12×1020 POT で、これまでに蓄積されたミューニュートリノビームのおよそ半分の統計が得られています。そしてこの度、T2K実験ではこれらのデータを解析した結果、反ミューニュートリノ振動による反ミューニュートリノ消失現象を観測することに成功しました。

図2 : 反ミューニュートリノビーム運転時にスーパーカミオカンデで観測されたニュートリノ反応事象数分布。赤:反ミューニュートリノ振動が無い場合の予想。黒点:データ。青:反ミューニュートリノ振動があると仮定して、際のデータをもとに、反ニュートリノ振動パラメータをフィットして得られた分布。

図2 : 反ミューニュートリノビーム運転時にスーパーカミオカンデで観測されたニュートリノ反応事象数分布。赤:反ミューニュートリノ振動が無い場合の予想。黒点:データ。青:反ミューニュートリノ振動があると仮定して、実際のデータをもとに、反ニュートリノ振動パラメータをフィットして得られた分布。

図3 : 測定された反ニュートリノ振動パラメータの許容範囲(青)。黒はニュートリノ振動パラメータの測定結果。

図3 : 測定された反ニュートリノ振動パラメータ sin2θ23, Δm232 の許容範囲(青)。黒はニュートリノ振動パラメータ sin2θ23, Δm232 の測定結果。

図4 : T2K実験で得られた反ミューニュートリノ振動パラメータとMINOS実験で得られたパラメータとの比較。

図4 : T2K実験で得られた反ミューニュートリノ振動パラメータ sin2θ23, Δm232 とMINOS実験で得られた同じパラメータとの比較。

J-PARCで生成した反ミューニュートリノビームを、J-PARCの敷地内に設置された前置検出器で測定した結果をもとに、スーパーカミオカンデで観測されると期待される反応事象数を見積もったところ、反ミューニュートリノ振動が無いと仮定した場合は 59.8事象の観測が期待されるのに対し、反ミューニュートリノ振動があると仮定した場合では 19.9事象の観測が予想されました。ただし、振動の振舞いはミューニュートリノ振動と同じであることを仮定しています。一方、実際の観測からは17事象が得られました。

図2はスーパーカミオカンデで得られた事象数をニュートリノのエネルギーの関数として表したものです。図2(a)において、赤いヒストグラムが反ミューニュートリノ振動が無い場合であるのに対し、誤差棒付きの黒点が実際に得られたデータです。0.6 GeV あたりで明らかに反ミューニュートリノが消失していることが分かります。青いヒストグラムは、実際のデータをもとに、反ニュートリノ振動パラメータをフィットして得られた分布です。図2(b)は、(a)の黒点および青のフィット結果を、反ミューニュートリノ振動が無いと仮定した場合の赤いヒストグラムとの比をとったものです。明らかな振動のパターンが見られます。図3は、データをフィットして測定された振動パラメータ sin2θ23 と Δm232 を表しています。青い実線および点線は90%および68%信頼水準の許容範囲を示しています。参考として、ミューニュートリノ振動の測定から得られた sin2θ23 と Δm232を黒い実線と点線で示しています。反ミューニュートリノ振動の測定は、まだミューニュートリノ振動の測定ほど精度がありませんが、両者は誤差の範囲で一致しており、反ミューニュートリノがミューニュートリノと違う振動の振舞いをするようなことは見られませんでした。また、図4は同じく反ミューニュートリノ振動を測定したアメリカのMINOS実験の結果(赤線)と比較したものですが、こちらも両者の結果は誤差の範囲でよい一致を見せています。

今後はさらに統計をためて測定精度を高めるとともに、レプトンのCP非対称性に感度のある反電子ニュートリノ出現現象の探索を進めていきます。