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2006年10月26日

b クォークを含む新しいバリオンを発見

quarks

図1:クォークの世代と種類

SigmaB_Points_SmallRange

図2:Λb0 と π の不変質量分布.左側のピークが Σb± に対応し,右側のピークがΣb に対応する.

BaryonChart

図3:軽いクォーク(u, d, s)と bクォークを構成要素とする J=3/2 のバリオンの系列図.

大阪市立大学高エネルギー物理研究室が参加しているCDF実験で, b クォークを含む新しいバリオン Σb± (J=1/2) とそのスピン励起状態 Σb (J=3/2) が発見されました. “バリオン”とはクォーク3個からなる粒子のことで,身の回りの原子の中心にある原子核を構成する“陽子”や“中性子”もこれに当たります.図1は現在知られているクォークの種類を世代と共に並べたもので,世代が大きくなるにつれて質量も大きくなります.陽子が(u, u, d),中性子が(u, d, d)から成り立っているのに対し,今回発見された Σb+ は(u, u, b), Σb は(d, d, b)から出来ています.b クォークが重いことにより生成率が低く,生成するには高いエネルギーと高い統計量が必要で,そのために今までに他の実験で発見されることなく今回のCDFでの発見となりました.クォーク間の相互作用を記述するQCDの研究によって,Σb(*)± は Λc0 と π± に崩壊することが予想されていたので,データ解析は Λb0→ Λc+π, Λc+→ pKπ+ の連続崩壊を再構成した Λb0 とそれらとは別の π± の飛跡とを組み合わせて不変質量を計算するという方法で行われました.図2はその再構成された不変質量分布です.確かに粒子の存在を示すピークが2つ確認され,その質量の理論値との比較からそれぞれ Σb± (左側),Σb (右側)と同定されました.測定された質量は以下の通りです.

mb) = 5816 +1.0 (stat) ± 1.7(syst) MeV/c2
−1.0
mb+) = 5808 +2.0 (stat) ± 1.7(syst) MeV/c2
−2.3
mb*−) = 5837 +2.1 (stat) ± 1.7(syst) MeV/c2
−1.9
mb*+) = 5829 +1.6 (stat) ± 1.7(syst) MeV/c2
−1.8

図3は,スピン J=3/2 で u, d, s, b の4種類のクォークからなる理論的に可能なバリオン状態(クォーク3個の状態)の系列を表しています.過去の実験から,軽い3種類のクォーク(u, d, s)からなるバリオンは全て発見されています.今回のCDFの発見は1個の b クォークを含む J=3/2 のバリオンの最初の確認です.理論ではさらに4種類の同じような粒子を予言しており,また図3では示されていませんが,c クォークを含むタイプのバリオンも存在すると考えられています.ただし,フェルミ研究所で1995年に発見されたトップ(t)クォークは,崩壊するまでの寿命が非常に短いためバリオンの構成要素には成り得ないと考えられています.