Ξb0 バリオンを発見
これまで、大阪市立大学高エネルギー物理研究室が参加しているCDF実験で、bクォークを含む新しいバリオンとして、Σb±, Σb*± (高エネルギー物理研究室ニュース 2006年10月26日号), Ξb− (高エネルギー物理研究室ニュース 2007年6月18日号)の発見をお伝えしましたが、今回新たに Ξb0 が発見されましたので報告します。Ξb0 はクォークの成分として、(u, s, b) の内部構造を持つ, スピン1/2のバリオンです。以前発見された Ξb− とは d クォークの代わりに u クォークが入っているところが違います。図1は、u, d, s, b からなるスピン1/2のバリオンを b クォークの数で分類したものですが、Ξb0 は、b クォーク1個のところに属します。ちなみに、b クォークが2個含まれるバリオンはまだ発見されていません。
今回のデータ解析は、重心系エネルギー 1.96 TeVの陽子反陽子衝突の 4.2 fb−1にあたる統計量で行われ、Ξb0 は Ξb0 → Ξc+π−, Ξc+ → Ξ−π+π+ という崩壊を再構成することで確認されました。Ξ− はさらに Λπ−、 Λ は pπ− へと最終的に崩壊します。以前の Ξb− 発見のときは、終状態に J/ψ からの μ+μ−ペアが含まれ、反応が起きたことを示す目印となりました。しかし、今回の Ξb0 は終状態が全てパイオンまたは陽子なので、見つけやすい目印がなく、したがってデータ解析は困難なものになりましたが、高性能なシリコン中心飛跡検出器(SVX)のおかげで目的を達成することが出来ました。図2は Ξb0 の崩壊様式と、SVXでの粒子検出の様子を示しています。
図3は、Ξ− と 2個の π+ を再構成した不変質量分布です。2.47 GeV/c2に Ξc− のきれいなピークが見られます。これらの Ξc+ と、π− を再構成して得られたものが図4ですが、5.8 GeV/c2付近に顕著なピークが見られます。図3の Ξc− のピーク幅から、ここでの Ξb0 の質量精度は 20 MeV/c2 と見積もられ、この値を用いて図4のピークをフィットすると図5のようになり、 Ξb0 の信号の数は、25.3 +5.6−5.4 と得られました。これを統計学的に処理すると、バックグラウンド事象の統計的揺らぎから同じピークが出来る確率は 3.6×10−12 と計算され、6.8σに対応します。これより、今回 Ξb0 がほぼ確実に発見されたと言えます。また、 Ξb0 の質量は
m(Ξb0) = 5787.8±5.0(stat)±1.3(syst) MeV/c2
と測定されました。
CDF実験では、現在、今回の解析に使われた量の約2倍のデータを持っているので、今後の解析でさらに新しい粒子の発見があるかもしれません。
- フェルミ加速器研究所のプレスリリース
- arXiv プレプリント “Obvervation of the Ξb0 Baryon”