W 粒子とZ 粒子の同時生成を初めて観測
W± 粒子及び Z0 粒子は,“弱い相互作用”を媒介するゲージボソンです.表1に示すように素粒子標準模型によると自然界の基本的な相互作用(力)は4つ存在し,強さの小さい順から“重力相互作用”,“弱い相互作用”,“電磁相互作用”,“強い相互作用”となります.この内,今回紹介する“弱い相互作用”は例えば原子核のβ崩壊などを引き起こします.素粒子物理の考え方では,相互作用は媒介粒子(ゲージボゾン)を交換することによって起こり,“弱い相互作用”の場合 W± 粒子と Z0 粒子がこれに当たります.従って,これらの生成過程を詳しく調べることは相互作用の理解をより深めることに繋がります.特に実験結果が理論計算と異なる結果になった場合は,今まで知られていない“新しい物理”の存在を示唆するので非常に重要です.さて今回の W± 粒子と Z0 粒子ですが,これらはそれぞれ単体では生成過程がかなり詳しく調べられている一方で,2つの同時生成となると生成断面積(生成率)が非常に小さく,これまでは唯一 W+W− の生成が観測されていました.しかし今回,大阪市立大学が参加しているCDF実験において初めて W±Z0 の同時生成が観測され,その生成断面積も世界で始めて測定されました.
W±Z0 の同時生成過程は図1のようになります.1つは図1(a)のように,陽子・反陽子中のクォーク・反クォークの衝突により Z0 粒子が中間状態として生成され,その後 W± と Z0 に分かれるというものです.(s チャンネル) もう1つは図1(b)のように,クォーク・反クォーク衝突においてクォーク(反クォーク)の交換により W± と Z0 対が生まれる形のものです.(t チャ ンネル) 特に図1(a)の過程は“弱い相互作用”を媒介する粒子(ウィークボゾン)どうしの3点結合の情報を与えてくれるもので,非常に重要です.もし この結合定数が理論値と異なるものになれば,一見1点に見えるこの結合の細部には“構造”があり,それは“新しい物理”や“未知の素粒子”の存在を示すことになるかもしれません.
今回,CDF実験では 1.1 fb−1 の陽子・反陽子衝突データを使い,W± と Z0 の両方がレプトン(e, μ)に崩壊するモード:
W± → ℓ±ν, Z0 → ℓ+ℓ−
を用いて全体として3つのレプトンを含むイベントを解析しました.さらに終状態に測定器で検出することの出来ないニュートリノがいることから,検出されるエネルギーに非等方性が現れるので,これも信号の目印にしました.このようなイベントは高エネルギー粒子どうしの衝突の際に現れるものとしては稀なので,信号/ノイズ比を上げてくれます.さらにレプトンの同定作業を注意深く行ってイベントを絞り込んで得られたスペクトルが図2と図3です.誤差棒付きの点がデータで,色分けしてあるヒストグラムがモンテカルロシミュレーションによる予想です.W±Z0 生成の寄与が無ければデータを説明出来ないことが分かります.数値的にはバックグラウンド事象が2.7イベント,信号事象が12.5イベント予想されていたところに,実際には16イベントが観測されました.これから陽子反陽子衝突からの W±Z0 対の生成断面積が
σ(pp → WZ) | = | 5.0 | +1.8 | (stat. + syst.) | pb |
−1.6 |
と測定されました.因みにこの値は2006年11月現在に測定されているあらゆる反応/生成断面積の中で世界最小値を記録しています.
現在は統計を上げて,さらに小さい値を持つと考えられている Z0Z0 の同時生成断面積の測定に挑戦しています.