Ξb− バリオンを発見
以前の OCU HEP Lab. news で,b クォークを含む新しいバリオン Σb± の発見を報告しましたが,今回は同じく大阪市立大学が参加しているCDF実験で Ξb− と呼ばれる新しいバリオンが発見されました.これは図1のように (d, s, b) の3つのクォークが互いに強い相互作用で結びついて出来ている粒子(バリオン)です.“Ξ” はギリシャ文字で “グザイ” と読みますが,素粒子のネーミングのルールで s クォークを含むアイソスピン1/2のバリオンにはこの “Ξ” という文字を充てることになっているので,今回は d + s + b で “Ξb−” というわけです.因みに,(u, s, s) は Ξ0,(d, s, s) は Ξ−,(u, s, c) は Ξc+, (d, s, c) は Ξc0 です.
今回の Ξb− は Ξb− → J/ψ + Ξ−, J/ψ → μ+ μ−, Ξ− → Λ π−, Λ → pπ− という一連の崩壊飛跡を再構成するという方法で発見されました.この崩壊過程を図示すると図2のようになります.測定器には磁場が掛けられてるので,荷電粒子はローレンツ力により曲げられます.その“曲がり”の向きで電荷の正負が判別できます.p と π− から再構成された Λ と,もう1つの π− を運動学的に組み合わせると図3(a)が得られ,1321 MeV/c² の質量を持つ Ξ− が見えます.また,2つの反対電荷を持つ μ 粒子からは図3(b)に示すように質量 3096 MeV/c² の J/ψ 中間子が得られます.この Ξ− と J/ψ を両方含むような事象サンプルを集め,Ξ− と J/ψ を運動学的に再構成すると図4が得られました.5.8 GeV/c² 辺りに Ξb− バリオンの存在を示す鋭いピークが見て取れます.5.75 GeV/c² と 5.85 GeV/c² の間には18事象が存在しています.統計的手法を用いてガウス関数でフィットを行うと,その中心値から
m(Ξb−) = 5792.9 ± 2.4(stat.) ± 1.7(syst.) MeV/c²
が得られました.この値は理論予測と誤差の範囲で一致しています.CDF実験チームではこの発見をより確実なものとするために,図4のピークが統計的に偶然得られる確率を計算しました.本来フラットな分布が統計的に揺らいで,偶然にピーク構造を示すことはあり得ます.しかし今回の場合,この確率を計算すると 4.1×10−15 という極めて小さな値になり,Ξb− バリオンの存在は確実なものとなりました.新しいバリオンの発見は,クォークどうしの結びつきを解明する上で重要なヒントを与えてくれると期待されています.