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2008年08月07日

ヒッグス粒子の探索 (3)

SMhiggs_crosssection

図1:Tevatron におけるヒッグス粒子の生成断面積.(赤:ベクトルボゾン随伴生成,青:グルーオン融合生成 緑:ベクトルボゾン融合生成)

SMhiggs_branchingFraction

図2:ヒッグス粒子の崩壊モード.

tevhiggslimit_080801

図3:CDF+DØで得られたヒッグス粒子生成断面積の上限値.

当研究室が進めている,CDF実験における Higgs(ヒッグス)粒子探索の最新結果が公表されました.今回はより重要な結果を含んでいるため,CDF実験施設のある米国フェルミ研究所から,報道機関向けの発表も行われました.このプレスリリースに興味のある方は こちら をご覧下さい.ヒッグス粒子の一般的な紹介は 2007年9月4日付高エネルギー物理研究室ニュース を,また当研究室のヒッグス粒子探索研究については 2008年5月15日付高エネルギー物理研究室ニュース をご覧下さい.これらの研究室ニュースで述べられているように CDF実験においてヒッグス粒子が生成される素過程には,クォークと反クォークの衝突からベクトルボゾンの中間状態を経てヒッグス粒子が放出される “ベクトルボゾン随伴生成” (図1赤)

qqWH, qqZH

グルーオンどうしが衝突してヒッグス粒子になる”グルーオン融合生成” (図1青)

ggH

それから,”ベクトルボゾン融合生成” (図1緑)

qqHqq

などがあります.ヒッグス粒子の崩壊様式は図2に示すように,MH < 130 GeV/c2 では bbMH > 130 GeV/c2 では H → W+W が主な崩壊モードになります.今回は約3.0 fb−1 までのデータを用い,155 〜 200 GeV/c2 の領域,従って H → W+W の崩壊モードを用いたヒッグス粒子探索解析を総合しました.WH → WWW の解析は大阪市立大学が行い,H → W+W の解析はDuke大学やCalifornia大学等が行っています.さらに,Tevatron加速器を用いたもう一つのDØ実験と我々CDF実験の解析を総合して最終的な結果を出し,図3に示されているような,理論計算に対する上限値と理論計算との比が得られました.Limit とは,それ以上は確率的にあまり考えられないということを意味しており,そのラインより理論計算が大きい場合,従って,比でいうと1以下の場合,そのような質量を持つヒッグス粒子は一定の信頼度で存在しないと結論されます.図の黒い実線からわかるように,今回の解析により 95% の信頼度で 170 GeV/c2 は排除されました.これは,Tevatron加速器を用いた実験がいよいよヒッグス粒子の存否に迫ってきていることを示しており,CERN研究所のLEP実験以降約5年ぶりにヒッグス粒子に関する新たな知見が得られ始めたことになります.今後,Tevatronではますますデータ収集とデータ解析が進められていくので,ヒッグス粒子の真相が より明らかになると考えられます.